「けいはんな学研都市30周年」記念シンポジウム(2017年3月9日)にて

 グランフロント大阪で開かれた「けいはんな学研都市30周年」記念シンポジウムに参加してきた。けいはんな学研都市には数多くの研究機関が進出して規模が拡大しており、今話題の人工知能のメッカとしても約30年前の歴史を誇るという点が驚きであった。

 

いくつかの講演の中で特に印象的であったのは以下の2つである。
 ※聴講したものから私が抜粋したもので、一部誤解による齟齬の可能性がある点はご容赦願いたい。

1.基調講演「さらなる飛躍に向けて」 (公財)高等研究所所長 長尾 真氏

 けいはんな学研都市の30年の経緯と今後についての講演であった。
 「つくば学研都市を関西に・・・」のもと、「ローマクラブの成長の限界」に刺激され、「持続可能な社会の実現」を目標に設立、現在130程度の施設が存在(図1)し、特に2002年以降「研究開発型産業施設」が拡充。けいはんな学研都市の人口も1988年の約16万人から2015年には約25万人に増加(図2)している点などが印象的であった。

図1 企業の立地状況

図2 けいはんな学研都市における人工の推移

 今後30年には「三菱東京UFJ銀行のデータセンター(事務センター)」、「京都大学 農場」「日本電産」など多くの研究施設が加わる予定で、発展のポテンシャルがかなり高いことを強調されていた。そして「理想の林間都市を目指して」を目標に以下の具体的な施策を挙げておられた。
  ①在宅勤務・自動運転交通新幹線の実現
  ②居住地区、娯楽地区、商業地区、研究開発地区など12の特色あるエリアの発展
  ③文化財保存・修復センターの実現、技術の国際的教育機関の確立
  ④国際的な研究都市として外国人家族のための居住環境や教育機関の整備
 また日本社会の今後30年を見据えた「スマートシティの実現」を挙げておられ、社会のあらゆる活動にAIが導入され、以下のような事が実現するであろうと紹介されていた。
  ①限界費用ゼロ社会の実現
  ②労働時間の大幅な短縮
  ③何処にいてもテレワークで仕事ができる
  ④個人の好みに応じた製品が作られる
  ⑤物流はほとんど無人で行われる
  ⑥農業のスマート化
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 人口減少社会ではあるが、「けいはんな学研都市」がスマートシティ、持続可能社会のモデル都市として成長していけば、これからの日本のあるべき姿を具現化するためのモデルケースとなりうる印象を持ち、今後への期待感を抱くことができた。
 一方で課題もいくつか提言され、中でも交通のアクセスは非常に大きな問題である。私自身も国立国会図書館関西館や奈良先端科学技術大学院大学のセミナーなどに行く際に車であれば利便性がよいが、公共交通機関の利用となると非常に不便に感じる。この点ではスマートシティにほど遠いが、話題となっている自動運転タクシーが格安で実現するようになれば面白い都市となるのではないだろうか。
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2.「人口知能の拠点を目指して」 ~脳科学とけいはんな人工知能拠点~
                ATR脳情報通信総合研究所 川人 光男氏

 けいはんな学研都市に位置するATR(株式会社国際電気通信基礎研究所)では、30年前の第2次人工知能ブームの時期から人工知能の研究を実施。ディープラーニング、音声言語処理(翻訳技術を含む)、脳とロボット強化学習、機械学習の汎化、計算論的神経科学、脳情報デコーディング、デコディッドニューロフィードバックなどさまざまな分野でいくつもの論文が発表されており、引用回数が数千に及ぶものもある。現在グーグルで活躍されている人もかつてこの研究所におられたと紹介されていた。
 第2次人工知能ブームは日本が第5世代コンピュータの開発などで世界のトップランナーでありながら失敗に終わったと言われているが、当時から現在の第3次ブームの技術に繋がるものの多くを手がけていたようである。
 現在の人工知能の限界にも言及された。ディープラーニングは膨大なデータの集まる画像処理や囲碁などでは成功している。しかしデータの集まらないもの、例えば幼児なら簡単に歩ける初めての場面でも人型ロボットは簡単には歩けない。動画を交えつつ人間の脳の高度さを紹介されていた。
 最近の研究成果として脳活動操作(fMRI)が紹介された。脳内に侵襲することなく簡単なセンサーで脳派を測定でき、脳の活動を操作できる装置を開発。脳の一部の機能回復に応用し、うつ病の治療にも利用できる。研究所内に神経科のクリニックを設置し、実際の治療にも役立てている(まだ実験段階らしい)。従来のうつ病治療では薬の効果があるのは約4割、効果があった場合でもかなりの確率で再
発が起こる。一方で脳活動操作では効果が得られる確率もかなり高くなってきているようである。

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 さまざまなマスコミ情報や書籍の中で第2次人工知能ブームは失敗と位置づけられているが、この講演で当時の技術が現在の研究に大きく寄与していることが分かった。すぐさま実用的な成果は得られずとも無駄な研究とは言えない。基礎研究の重要性とトップランナーを維持しつづけることの意義を感じさせられた。脳活動操作はとても可能性のある研究ではあるが、一方でこの操作による記憶力の増強や性格変化など、倫理的に考えさせられる部分も多々あるように感じた。
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 けいはんな学研都市での研究成果はさまざまな研究機関や施設で発表され、セミナーなども実施されているようである。近くにある馴染みの施設でもあり、話題の人工知能を中心とした先端の知識を今後も学んでいきたいと感じた半日であった。

2017年03月15日